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brief story


ニュータウン、音楽教室、育児、移住
草原を駆け抜ける秋風、緊張感のある冬の空気、喜びに満ちた春、清々しい夏、いつかこの感覚を生活と音楽に落とし込みたい。伊那谷にある友人のレコーディングスタジオをはじめて訪れたときから持ち続けた思いです。東京での学生生活を経て帰郷し、さてこれから何をしようか?と考えたとき、当時大人が楽しめる音楽教室が少ない。音楽制作に関しても難しく聞こえる講話を簡単シンプルに変換して伝えたい。

その想いから2005年兵庫県尼崎市にて「たのしい音楽教室」を立ち上げます。信州へ移住するまでの13年間、たくさんの皆様方にお世話になり、かけがえのない経験を積まさせていただきました。そうした中、移住のきっかけになったのが娘の誕生でした。仕事場への通勤時間や夜遅くまでのレッスンは、子育てには環境的に厳しいものがありました。そこで、いつかは暮らしてみたいと思っていた信州で子育てしてみたい、仕事もやっていこうと決心しました。

移住から3年が立ち、想像以上に仕事に時間を割くことのできない状況が続くことで育児の大変さを実感しております。娘中心に成り立つ日常生活の隙間の時間、深夜の時間に少しでもこつこつと創る。おかげで時間の貴重さに気付かされ「いつでもできる」から「今しかできない」へと思考が変わり集中して音を聴くことができるようになりました。

移住によって得られた環境の変化、育児を中心とする生活の変化がサウンドデザインの世界へも大きな影響と広がりを与えてくれます。なにも僕が創らなくても、すでに周りにあるんじゃないかとさえ感じられます。でも、むしろそのこと自体が僕に音楽を創らせる。外と僕自身が反響して呼応して会話を楽しんでいるような。全く新しい人間関係、気候、慣れ親しんだ場所ではないところにいることで、以前よりも孤独を感じます。ただ、その孤独が与えてくれる今まで感じなかったことが次々にやってきて五感が刺激される。音楽制作をする中で手法や職業的な方法論のもっと奥底に心の変化という崇高で人間的な活動がここにはあると若輩ながら思っております。

2020 TAKAAKI WATARI